妊娠中のRSウイルスワクチン「アブリスボ®」とは?赤ちゃんを守る効果と接種時期を解説
- 公開日:2026年4月2日
- 更新日:2026年4月2日
- ワクチン

赤ちゃんがかかるRSウイルス感染症とは
RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)は、乳幼児の肺炎や細気管支炎など、呼吸器感染症の主要な原因となるウイルスです。世界中に広く分布しており、生後1歳までに半数以上、2歳までにほぼ100%の子どもが少なくとも1回は感染するとされています。厚生労働省や日本小児科学会でも、乳児肺炎の約50%、細気管支炎の50~90%がRSウイルス感染症によるとされています。
RSウイルスは家庭内や兄弟・姉妹、保育園などを通じて広がりやすく、感染後は数日の潜伏期間を経て、発熱、鼻水、咳など、いわゆる風邪のような症状で始まります。多くの乳幼児は軽快しますが、一部では咳が悪化し、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューする呼吸)、呼吸困難、細気管支炎、肺炎へ進展します。厚労省は、初感染した乳幼児の約7割は軽症で改善する一方、約3割は重症化しうると説明しています。
特に注意が必要なのは、生後6か月未満の赤ちゃんです。日本小児科学会は、生後6か月未満で重症化しやすく、しかも乳児のRSウイルス入院は基礎疾患のない正期産児にも多いこと、生後1〜2か月で入院発生数がピークになることを示しています。つまり、「元気に生まれた赤ちゃんでも、重症化しうる」感染症です。
RSウイルス感染症では、無呼吸や急性脳症などの合併症が起こることがあり、後遺症として反復性喘鳴がみられることもあります。しかも、現時点でRSウイルス感染症そのものに対する決定的な特効薬はなく、治療は基本的に対症療法が中心です。重症化すると、酸素投与や入院管理、ときに人工呼吸管理が必要になることもあります。
日本では、2歳未満の乳幼児で毎年およそ12万~14万人、厚労省資料では2010年代に12万~18万人がRSウイルス感染症と診断され、3万~5万人、または日本小児科学会資料では約3万人が入院を要するとされています。推計幅には資料差がありますが、いずれの公的資料でも、乳児にとって疾病負荷が大きい感染症である点は一致しています。
妊娠中のワクチンで赤ちゃんを守る「母子免疫」
こうしたRSウイルス感染症に対して、妊娠中に接種できる母子免疫ワクチンがアブリスボ®筋注用です。アブリスボは、妊婦さんに接種することで母体内にRSウイルスに対する抗体を作り、その抗体が胎盤を通じて赤ちゃんへ移行することで、出生直後から乳児を守ることを目指すワクチンです。
日本では2024年1月に製造販売承認を取得し、厚生労働省は2026年度4月1日から妊婦のRSウイルスワクチンが予防接種法に基づく定期接種の対象になりました。使用する母子免疫ワクチンはファイザー社のアブリスボ®です。GSK社のアレックスビー®は高齢者向けであり、母子免疫ワクチンとしては用いません。
RSウイルスワクチンの接種対象・接種時期・接種費用
厚生労働省の定期接種では、接種時点で妊娠28週0日から36週6日までの妊婦の方が対象で、1回の接種で完了します。
また、厚労省は「接種後14日以内に出生した乳児における有効性は確立していない」と案内しており、妊娠38週6日までに出産を予定している場合は医師に相談するよう勧めています。抗体が十分に作られ、胎児へ移行するにはある程度の日数が必要なため、出産直前ではなく、適切な週数で相談することが大切です。
接種費用は自治体によりことなりますが、当院では川崎市在住の方であれば、妊娠28週0日から36週6日までの妊婦の方は無料となります。
里帰り出産中の方でも、住民登録のある自治体に確認していただければ、川崎市在住の方でなくても接種は無料となるケースが多いです。
RSウイルスワクチン「アブリスボ®」の効果
厚生労働省によると、妊娠中に接種することで、出生後の乳幼児のRSウイルスによる下気道感染症に対する予防効果が認められています。医療機関受診を必要としたRSウイルス下気道感染症に対しては、生後90日までで約6割、生後180日までで約5割の予防効果、重症の下気道感染症に対しては、生後90日までで約8割、生後180日までで約7割の予防効果が示されています。
日本小児科学会によると、重度のRSウイルス関連下気道感染症に対する有効性は生後90日で81.8%、生後180日で69.4%、医療機関受診を要するRSウイルス関連下気道感染症に対しては生後90日で57.1%、生後180日で51.3%と報告されています。つまり、アブリスボは「感染を100%防ぐワクチン」というより、赤ちゃんの重いRSウイルス感染症を大きく減らすワクチンと理解するのが実際的です。
RSウイルスワクチン「アブリスボ®」の安全性について
主な副反応としては、接種部位の痛み(41%)、腫れ(6%)、発赤(7%)、頭痛、筋肉痛などが知られています。
厚労省は、海外の一部報告では妊娠高血圧症候群の発症リスク増加の可能性が指摘されたものの、結果の解釈には注意が必要であり、薬事承認に用いられた臨床試験では妊娠高血圧症候群のリスク増加は認められなかったと説明しています。
他のワクチンとの同時接種について
RSウイルスワクチンのアブリスボはCOVID-19、インフルエンザワクチンと同じ受診機会に接種可能です。
接種時期や組み合わせは主治医と相談してください。
母子手帳への記録はとても重要です
妊娠中にアブリスボを接種した場合は、母子手帳の予防接種欄(その他の予防接種)に必ず記録しておくことが大切です。赤ちゃんが生まれたあとに風邪症状や呼吸器症状で小児科を受診した際、母親のRSウイルスワクチン接種歴と時期が、診療方針や予防薬の判断に関わることがあります。
そのため、赤ちゃんの診察時には母子手帳を持参し、小児科医に妊娠中の接種歴を伝えるようにしましょう。母子手帳は、最強の情報共有ツールです。
日常生活でできる予防も大切です
ワクチンに加えて、手洗いの徹底、体調不良者との接触を避ける、流行期の人混みを避ける、
といった基本的な感染対策も重要です。
まとめ
RSウイルスは、ほとんどの子どもが感染するありふれたウイルスですが、生後早期の赤ちゃんにとっては重症化リスクの高い感染症です。
特に生後1〜2か月は入院リスクが高く、基礎疾患のない赤ちゃんでも重症化することがあります。アブリスボ®は、妊娠中に接種することで胎盤を通じて抗体を移行させ、出生直後から赤ちゃんを守ることができるワクチンです。
「重症化する子を見分けることはできない」からこそ、予防が重要です。接種時期やスケジュールについては、ぜひお気軽にご相談ください。
■ 参考文献・引用
- 厚生労働省
RSウイルスワクチンに関する情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/rs/index.html - 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会
RSウイルス母子免疫ワクチンに関する考え方(2024年2月17日)
https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=559 - 医薬品医療機器総合機構(PMDA)
アブリスボ®筋注用 添付文書
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdSearch/02/631350AE1028 - ファイザー
アボリズボ.jp
https://www.abrysvo.jp/#05